On-Demand Library On-Demand Library
リストへ追加

大腸スコープ編

大腸病変診断の実臨床におけるEndocyto活用のポイント

三澤 将史 先生
[昭和大学横浜市北部病院 消化器センター]

I. Endocytoの特徴と内視鏡診断における有用性

超拡大内視鏡観察で新たな診断学の扉が開く

Endocytoの登場により、大腸病変に対し、生体内で細胞核や毛細血管のリアルタイム観察ができるようになりました。これは大きなパラダイムシフトであり、病理所見と極めて類似した画像が生体内で得られることになります。これにより、従来の診断学では判断が困難であった病変に対して確かな情報の上乗せがあります。すなわち、大腸病変であれば、腫瘍・非腫瘍の鑑別、また深達度診断に迷う場面で、より確信度を高めた診断が下せるようになると考えています。例えば、白色光観察で一見したところ腫瘍・非腫瘍の鑑別が困難な病変であっても、超拡大内視鏡(endocytoscopy:EC)観察所見において、EC分類(p.6:図1)を用いることで、両者の区別が容易となります(図4)。また、pit pattern診断まで行っても深達度診断に確信が持てない場合、EC観察を追加してEC 3bであれば高い確信度をもってSM高度浸潤癌と診断できます(図5)1)
NBIをEC観察と併用するEC-NBI観察は、拡大NBI観察よりも詳細な血管観察像を瞬時に得ることが可能です2)。色素撒布の手間を掛けることなく非常に簡便に使用可能なので、実臨床での有用性は高いと考えられます。私どもは発見した病変をまずEC-NBIで観察し、腫瘍か非腫瘍か、浸潤癌を疑う病変かを判断します。その後、より確信度を高めるため、適宜メチレンブルー染色を行って細胞核をEC観察し、診断する流れとしています。

図1
大腸におけるEC分類 [<腫瘍>EC 3a:文献2より転載]

図4
Endocytoを用いた観察による腫瘍・非腫瘍の鑑別。
(a)白色光観察で発見した病変(a-1)に対し、EC観察でEC 2の所見であり腫瘍と診断(a-2);


(b)白色光観察で発見した病変(b-1)に対し、EC観察でEC 1bの所見であり非腫瘍と診断(b-2)

図5
Endocytoを用いた観察による浸潤癌の深達度診断。
白色光観察(a)、EC-NBI観察(b)、


クリスタルバイオレット染色拡大観察(c)で浸潤癌を疑い、EC観察(d)でEC 3bの所見でありSM高度浸潤癌と診断

従来拡大機種より細径化され診断から治療までルーチン使用可能

Endocytoは、非拡大観察から最大倍率520倍(技術検証機・OEV262H使用時)のEC観察まで、従来の拡大内視鏡と同様に一連のズームレバー操作で倍率調節できます。加えて、現在市販されている大腸用の拡大内視鏡CF-HQ290Zに比べて細径化(技術検証機先端部径:12.8mm)され、挿入性も良好です。この特徴を生かし、当センターでは大腸内視鏡の初学者も積極的にルーチン機種としてEndocytoを使用しています。実臨床では症例を問わず気軽にEC観察を行ってみることで、思いもよらない新たな学術的発見があるかもしれません。
拡大倍率に加え、Endocytoの大腸スコープ(技術検証機)は前方送水機能、3.2mmの鉗子チャネルを持つことが重要な特徴です。したがって観察だけでなく、内視鏡治療にも使用可能と考えています。多くの先生方はEndocytoを特殊スコープと考えていらっしゃるかと思います。しかしそうした特徴から私どもは、むしろルーチン機種としての使用に適しており、病変の精査はもちろん、便潜血反応陽性での検査や、検診にも積極的に使用することで、臨床的メリットが得られるスコープと考えています。発見した病変について、スコープを替えることなくリアルタイムで病理診断に匹敵する診断を行い、最適な治療方針を決定した後、そのまま治療まで行えるので、非常に幅広いシーンで活用可能な内視鏡と言えます。

Endocytoの取り扱いに慣れるには

EndocytoでEC観察を行う際、通常の拡大観察の延長でさらに倍率を上げ、スコープ先端を粘膜に接触させたところで最大倍率のEC画像を取得できます。そのため、従来の拡大内視鏡ユーザーの先生方であれば、取り扱いに技術上のハードルを感じることはほとんどないと考えています。とくにEC観察は接触観察であるため、従来の拡大観察のように病変との一定の距離を保つ必要がありません。これは大きなメリットで、呼吸性変動などの動きのある環境でも、比較的容易にEC画像を取得することが可能です。これに対し拡大内視鏡の使用経験がない先生方がEC観察を行うには、ある程度操作に慣れる必要があります。まずは呼吸性変動の少ない直腸病変などから試して、少しずつ操作に慣れていくことでEndocytoを使いこなせるようになると考えています。

II. Endocytoによる観察の手順とコツ

EC-NBI観察の手順

当センターで私どもが行っている、Endocytoによる大腸病変の観察の手順を紹介します。
Endocytoで観察を行うとき、白色光観察の後に続いて行うのがEC-NBI観察(もしくは拡大NBI観察)になります。EC-NBI観察だけでなく内視鏡観察の基本中の基本ですが、まず病変の洗浄をしっかり行うことが重要です。NBIの光学的な特徴から、多少の粘液が残っていても観察の妨げにはなりにくく、十分良好な血管像が得られますが、続いて色素を撒布することも考え、十分に洗浄します。白色光観察で病変の全景をとらえたのち、病変に接触してフルズームするだけで容易にEC-NBI画像が得られます。もちろん、Endocytoは非拡大から超拡大まで連続的に倍率を変化させることができますので、従来拡大機種の拡大倍率に近い倍率での拡大NBI観察も可能です。

メチレンブルー染色とEC観察の手順

EC-NBI観察後、より確信度の高い診断をするためには、メチレンブルー染色を行ってEC分類に基づいた診断を行います。現在当センターでは、メチレンブルーの単染色を基本としてEC観察を行っています。もちろん、クリスタルバイオレット染色後にメチレンブルーを追加しても問題なくきれいなEC画像を取得できます。
具体的なメチレンブルー染色手順()としては、十分に洗浄したのち、1%のメチレンブルーを撒布チューブで少量ずつ滴下します。染色時間を約1分取るとベストな画像が得られることから、余分な染色液をゆっくり吸引して一呼吸置きます。その後、再度病変を洗浄します。メチレンブルーは表層の粘液を濃く染めてしまうので、良好な画像を得るために、観察前に十分な洗浄を行って再度粘液を除去する必要があります。洗浄後にスコープを接触させ、フルズームによるEC観察を行います。染色が不十分であれば同じ手順で追加染色します。

① 色素拡大観察もしくはEC-NBI観察終了後、非拡大観察に戻す。
② 粘液を十分に洗浄除去する。
③ 染色液(1%メチレンブルー)を病変に撒布チューブを用いて少量滴下する。
④ 余分な染色液を吸引しながら染色時間として約1分間待つ。
⑤ メチレンブルーで染まった粘液が観察の妨げにならないよう、十分に洗浄除去する。
図6の手順に従ってフルズームとし、EC観察する。
⑦ 核染色が不十分であれば1に戻り、同じ手順で追加染色を行う。

表 大腸のEC観察におけるメチレンブルー染色液を用いた核染色の手順

Endocytoの倍率調整とフルズームで接触観察するコツ

超拡大観察(EC-NBI観察、EC観察)のための倍率の上げ方(図6)は、腫瘍・非腫瘍の鑑別に迷う場面のように比較的病変が小さく、病変全体の所見が均質なケースと、病変が大きく所見が不均質なケースで変えています。前者であれば、病変内の任意の部位で同様な所見になるので、接触しやすい部分に接触後、フルズームとしてEC-NBI画像もしくはEC画像を取得します。後者であれば、わずかにズームレバーを下げた状態の拡大観察で、関心領域を見失わないようにしながら接触し、フルズームでEC-NBI画像、EC画像を取得します。もし関心領域を見失ってしまったら、いったん非拡大まで倍率を一気に戻してから、再度徐々に倍率を上げて絞り込むようにします。
病変粘膜にフルズームで接触させる際、粘膜からの出血を来してしまうとEC観察の妨げになる可能性があります。Endocytoでは従来の拡大機種と比べてレンズが若干突出しており、粘膜との接触が得られやすくなっているため、スコープ先端を強く押し付けようとせずに軽く接触させる感覚で扱うことが出血を避けるポイントです。出血した場合は、前方送水機能を使って随時洗浄すれば観察に支障を来さないと思います。

図6
EndocytoによりEC-NBI観察およびEC観察を行う際の倍率調節の手順

III. Endocytoのさらなる有用性への期待

内視鏡診断のさらなる精度向上や消化管疾患の病態解明に寄与する可能性

大腸病変の内視鏡診断に対するEndocytoの有用性は、なんといってもその高い診断精度であることが明らかになってきています。私どもは、EC観察が腫瘍・非腫瘍の鑑別において、gold standardである生検病理診断との非劣性を示すことをランダム化比較試験で証明しました3)。生検病理診断の正診率96.0%に対しEC観察では94.1%でした。つまりEndocytoは、生体内でリアルタイムに病理診断を行える可能性がある内視鏡ということになります。また、pit pattern診断にEC観察を加えることにより、SM高度浸潤癌かどうかの深達度診断について、上乗せ効果が得られることを明らかにしました1)。ほかにもEC-NBI観察の診断精度2,4)、潰瘍性大腸炎の活動性評価5)など、Endocytoの有用性を支持する多数の報告をしてきました。
しかし、Endocytoはまだまだ多くの可能性を秘めていると考えています。すなわち今後、癌の分化度診断や、転移・再発予測などの癌の高精度診断に加え、機能性胃腸症などの従来の内視鏡では異常がとらえられなかった疾患の病態解明にも、その有用性が発揮されていくことを期待しています。