On-Demand Library On-Demand Library
リストへ追加

腹臥位鏡視下手術の利点と問題点

従来の左側臥位手術では術野の展開は助手の技量によるところが大きく、また気管や肺の圧排のため特殊機器や用手補助が必要だった。また、2モニター法ではeye‐hand coordinationを得るために術者が見るモニターは倒立鏡面像にしなければならなかったため、カメラワークも高度の技量が要求された。さらにそのような状況下では縫合などの操作は困難を極めた。これらの問題点を腹臥位手術は大きく改善することができ、術野の展開も手術の操作性も飛躍的に向上した。浸出液の貯留も、腹臥位では気管左側を除き前縦隔に溜まるので術野はおおむねドライである。さらに左側臥位では、すべての臓器把持が重力に逆らうため、強い把持牽引が必要であったが、腹臥位では軽く手前に引く程度で従来困難だった左側縦隔深部の展開も容易である。しかし、ポートの位置により操作性に困難を感じることもある。また、助手の展開があれば多少の手術時間の短縮が見込めるシーンもあり、改善すべき問題も残されている。術野の展開、特に左側縦隔の展開は左側臥位では得られないものがあるので、根治性に関してリンパ節郭清は開胸標準手術以上の郭清が行えると期待できる。しかし、実際は上縦隔左側では鉗子操作性がうまくいかず、この部は左側臥位で行うハイブリッド手術を行っている施設もある。術式の定型化には今後の検討を待たねばならない。
また、腹臥位手術の利点の1つとして呼吸器合併症の軽減効果が期待される。理由として、術中はまず肺の圧排等の直接操作がないこと、左側臥位より左肺のコンプライアンスは良いし、分泌物が左肺に流れ込むことが少ないし、4ポートのみで手術を行うため閉鎖腔内で酸素に肺が触れないことや肋間筋の切離が最小限であることも関与しているかもしれない。
さらに、分離肺換気を行わず気胸のみで右肺を虚脱させると(実際は部分換気はされる)、術中術後の呼吸に対する影響も少なくて済むし、術野展開の面で気管左側はこれ以上の展開が得られないと思われるほど良い。緊急開胸には対応できるが実際は胸部の上位での開胸は難しく第7もしくは第8肋間開胸にならざるを得ない。この時、出血が緊急開胸の原因ならば、用手的に止血を試みるだけで適切な側臥位体位を作り直して、より上位での直視下の開胸手術ができるようにすべきと思われる。