On-Demand Library On-Demand Library
リストへ追加

【エネルギーデバイスを用いた肝離断】

● 超音波凝固切開装置やシーリングシステムなどのエネルギーデバイスの進歩に伴い、肝離断にもエネルギーデバイスが応用されている。
● 最近報告された多施設共同研究では、肝離断にエネルギーデバイスを使用することにより、離断時間が短縮し、胆汁漏は少なかったという結果が報告された 1)

【THUNDERBEAT】

● 超音波振動、バイポーラの同時出力による凝固切開が可能なサンダービートは、超音波切開装置よりシール幅が広く、シーリングシステムより切開時間が短いという研究結果が報告されている 2)

● 私たちの外科講座では従来から、CUSAで肝実質を破砕し、バイポーラで止血、索状物は結紮切離する方法で肝離断を行ってきた。最近では、それに加えて、微小な肝静脈枝をサンダービートで切離する方法を導入した。

● サンダービートは、そのほかにも間膜の切開や副腎周囲の剥離などにも有用と考えている。

● 開腹肝切除においては、横隔膜あるいは副腎との剥離に、20cm が有効と考えている。

〈 使用機器紹介 〉

1 肝細胞癌に対する肝S7+S8d+S6c亜区域切除

症例:60歳代/男性

● 症例は 60 歳代男性、B 型肝炎を背景とした肝 S7 を主 座とする 6cm 大の 肝細胞 癌と肝内転 移を有していた
 (T3N0M0 StageIII)。

● AFP:95.5、PIVKA-II:30755 と腫 瘍マーカーが高値で、ICGR15 分値 6.6%、肝障害度 B と肝予備能の軽度低下を認めた。

【術前シミュレーション】

● S7 主腫瘍が S8 背側区域にまたがっていて、さらに S6/7 境界領域に肝内転移があった。右葉切除や後区域切除 +S8亜区域切除は、切除率が大きく、肝予備能から過大切除と考えられた。
● したがって、S8 背側区域と S6 に一部切り込んだ S7 亜区域切除を計画した(切除率 29%)。
● 背景に慢性肝疾患を有し、かつすでに肝内転移を有する肝細胞癌では、高率に肝内再発を生じるため、術後肝不全のリスクを回避し、残肝機能を維持する必要があると考えている。

1-1 肝授動

● 開腹法は標準的に右逆 L 字切開を用いているが、最近では上腹部正中切開で行う症例が増えている。 腹直筋を横切開することは、術後の疼痛管理や離床に大きく影響していると考えている。
● 肝両葉を授動することで、下大静脈を軸に肝全体をローテーションすることが可能となる。
● 肝鎌状間膜、冠状間膜、肝腎間膜など、膜の切開にサンダービートを用いている。これらの間膜内にはリンパ管が走行しており、有効なシーリングは術後の腹水貯留を減少させる可能性がある。
● 慢性肝疾患においては、副腎が肝背面と強固に癒着している症例を経験する。剥離の際に副腎が裂けて、 無用な出血を生じることがあり、繊細な操作を要するが、この操作にサンダービートが有用である。先端が繊細で微小な血管の凝固切開に適しており、好んで使用している。

1-2 右片葉阻血

● グリソン右枝を確保し、肝離断時の流入血コントロールを片葉流入血遮断法で行う。肝離断部位が片葉内に限局される場合、片葉流入血遮断法が全肝遮断に比較して肝庇護に有利である。

1-3 術中エコー・門脈色素染色法

● 術中エコーは、肝内脈管走行の可視化と腫瘍の同定に必須であり、ソナゾイド ® での造影を行うことにより、腫瘍の同定はより明瞭となる。
● 亜区域を同定する方法には、肝門部から責任グリソンを直接同定しクランプすることにより、虚血域を見る方法と、責任門脈をエコーガイド下に穿刺し、色素染色する方法がある。
● 本症例では、S7 主腫瘍が S8 背側区域に一部入り込んでいること、S6/7 境界領域に娘結節が認められることから、色素染色法を用いて S6c を含めた S7 亜区域領域を染色して、切除域を同定した。

1-4 肝実質離断

● 肝実質離断は、CUSA で肝実質を破砕・吸引し、残るグリソン枝や肝静脈枝を結紮切離する。5mm 未満の肝静脈枝は、サンダービートでシール切離可能である。グリソン枝は結紮切離している。

1-5 右肝静脈の露出・分枝の切離

● 右肝静脈の分枝を払い、露出してメルクマールにする。

● 5mm 未満の肝静脈枝は、サンダービートでシール切離可能であり、肝静脈を露出する際の分枝引き 抜き損傷を防ぐのに有用である。

1-6 S7グリソンの切離

● S7 グリソンに到達、3-0 絹糸と 4-0 血管縫合糸刺入結紮による 2 重結紮ののちに切離する。

1-7 手術結果

手術時間:7時間 42 分(S8 部分切除を含む)
出 血 量 :535ml
輸血量:0ml
片葉阻血:60 分
病理結果:Hepatocellular carcinoma, poorly>moderately differentiated type, ig, vp1, vv0, va0, b0, im+, T: 60×33mm, 15×11mm