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ゴールドマーカー留置の実際
~理想のマーカー留置を目指して~

北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野

品川 尚文 先生

肺癌に対する動体追跡放射線治療に欠かせないのがゴールドマーカー留置です。本治療が北海道大学病院(北大病院)で臨床応用された当初からこの手技に携わってきた経験をもとに、留置手技のポイントを解説します。

呼吸器内科からみた適応基準

基本的にはリンパ節転移のないT1およびT2を適応とすることを放射線科との間で決めています。原則的にはこの範囲は外科手術の適応となりますが、高齢者や低肺機能などで手術が困難な症例が最もよい適応と判断できます。その他、重複癌の症例、手術を拒否した症例に対しても選択されます。
病変部位に関しては、これまでは末梢肺領域を対象にした照射方法を標準にしていましたが、最近では比較的中枢に近い病変にも安全に照射する方法が行われており、そのような症例に出会った場合は、まず放射線科に相談しています。

患者さんの受け入れ態勢

北大病院では、通常、胸部異常影があって呼吸器内科を受診し、検査で肺癌と診断され、上記の適応にあてはまる方に対しては、手術と併せてこの治療法があることを説明しています。特に手術が困難と判断された症例では、手術困難の理由を説明した上で放射線科にも紹介し、この治療法について十分に理解してもらうようにしています。
最近では、この治療法が他院の先生方の間に広く知られるようになりましたから、放射線科に直接、紹介されるケースも増えており、その場合には、呼吸器内科は放射線科の依頼を受けてマーカーの留置を行います。
気管支鏡検査を初めて経験する患者さんには丁寧なインフォームドコンセントが必要なことはいうまでもありません。ただし多くの患者さんは、すでに気管支鏡検査を経験していますので、「検査の場合と同じようなことをする」ということで、安全な手技であることを理解してもらっています。また、生検を経験された方には、「生検よりは負担が少なく、短時間で終わる」ことを説明しています。
当科におけるマーカー留置手技による合併症の発症は、ディスポーザブルシステムを使用開始してからの111例中、気胸を1例だけ経験していますが、その他の合併症と併せて発症率は観察のみの場合と同程度と考えられます。

ゴールドマーカー留置の実際

放射線科から要求されている理想のマーカー留置に関する条件は、1)腫瘍辺縁から3cm以内で、2)4個のゴールドマーカーを、3)腫瘍を取り囲むようにバランスよく、4)脱落しないように留置する、です。基本は、この条件をクリアするよう目指しています。

ただ、患者さんの状態から条件通りの留置が難しいことがあります。そのような状況の時は、無理せずに、最悪でも確実に1個のゴールドマーカーが残る位置に留置するようにしています。

 

①気管支鏡の選択

ゴールドマーカーの直径は1.5mmなのでBF-XP260F(オリンパス社製)は使えませんが、それ以外の気管支鏡はすべて使うことができます。可能なかぎり末梢の気管支に入っていこうとすれば、通常は細径スコープのBF-P260F(オリンパス社製)を使うことになります。しかし、最終的には透視下に内套の誘導子を操作して分枝を選んで入っていくので、必ずしも細径スコープである必要はありません。

 

②留置位置の選択

留置手技の基本的な手順は、まずスコープを目標とする気管支に挿入したら先端から外套を出し、次に透視下に内套の誘導子を操作して進みます。目的の留置部位に達したら、その位置まで外套を前進させて固定し、内套を抜去します。(下図参照)

ポイント 胸膜との距離

ゴールドマーカーの脱落を防ぐには、末梢気管支終末の奥に留置する必要があり、その条件に最も合うのは胸膜直下ということになります。当科の経験では、胸膜からの距離が1cmを超えると脱落率は高くなっていますので、可能なかぎり胸膜直下ギリギリに留置するように心がけています(P11参照)。
胸膜との位置の確認には、回転式透視装置の透視画像で胸膜と外套先端が直角になる画像を選び、気胸にならないように注意しています。腫瘍からの距離は前述の通り3cm以内を目安にしているので、3cmのクリップを用いておよその距離を確認しながら留置するようにしています(写真参照)。
固定式透視装置を用いる場合には、患者さんの体位を動かす必要がありますが、胸膜との距離が測りやすく留置に適した枝があれば、それを優先的に選択し、できるだけ患者さんの体位を変えずに胸膜直下に留置する工夫が必要になります。

ポイント 透視で見えにくい病変の場合

透視で見えにくい擦りガラス状陰影をもつ肺胞上皮癌も治療対象になります。そのような場合には、当科ではCT画像を印刷しておき、CT画像と透視画像を比較しながら可能なかぎり正確に病変位置を確認するようにしています。

 

③ゴールドマーカーの留置
留置する位置を決定したら、ゴールドマーカーをカートリッジから押し出して外套内に装塡し、内套で押して外套の先端まで送り、透視で位置を確認した上で、ゴールドマーカーを外套の外に押し出して留置します。

ポイント ゴールドマーカーを押し出す時の注意

ゴールドマーカーを外套先端から押し出す時には、胸膜を傷つけないように注意する必要があります。特に最初の1個を押し出す時には、外套先端の引っかかりが少しきついため、強く押し出すと勢いよく飛び出すことがあるので、ゆっくり加減しながら押し出します。

 

④ゴールドマーカーの脱落
当科の経験では、脱落率はおよそ20%です。放射線科からは、より正確な位置確認のためには3個のゴールドマーカーが必要といわれていますので、必然的に4個を留置するようにしています。

ポイント 脱落率が高い上葉への留置

上葉、特に左肺上葉は脱落率が高いので、4個のゴールドマーカーを腫瘍近傍にバランスよく留置することが困難な場合が多いです。そのような場合には、病変部との距離が離れても、気管支の角度がなだらかになって脱落しにくい胸膜直下の位置を選択し、脱落しないゴールドマーカーを1個は確実に留置するようにしています。

 

⑤マーカー間の距離
マーカー間の距離は最低1cm以上、できれば2cm以上離すように、放射線科からは指示されています。これは照射タイミングを決める対象となるゴールドマーカーが、他のゴールドマーカーと接近していると誤って認識されてしまうのを避けるためです。

ポイント 同じ気管支に留置する場合

実際には、1個のマーカーを留置後に同じ亜区域内の別な気管支を選んで留置することがありますが、必ず複数の角度から透視を行い、マーカー間に確実な距離があることを確認する必要があります。

ポイント 留置困難な症例への対応

術後の断端再発症例も適応になりますが、マーカー留置には困難を伴います。断端部では気管支は変形しているため留置できる気管支は限られており、かつ脱落しやすい形状になっていることが多いのです。このような場合は、4個の留置にはこだわらないようにしています。数少ない病変近傍の気管支に無理に4個を留置しようとすると、マーカー間の距離が接近してしまうことになるからです。

留置術中の管理と治療後の外来診療

現在までに、留置術中に容体が急変した症例に遭遇したことはありませんが、高齢者や呼吸機能が低下した患者さんが多いので、リスクに対する準備は十分にしておく必要があります。
退院後は、3カ月に1回の放射線科外来診察に加えて、1、2カ月に1回の呼吸器内科外来診察を行っています。この治療では、照射局所の放射線肺臓炎が高頻度で発症します。通常、予想した程度の肺臓炎であれば経過観察になりますが、症状が重い場合や照射野外にも炎症が拡がった場合には、ステロイド治療を行います。

ゴールドマーカーの新たな可能性

ゴールドマーカーの臨床応用はこの治療に限定されるべきではないと思っています。例えば、透視で病変を確認しにくい肺胞上皮癌の胸腔鏡下手術は、現在は、病変部に少量のバリウムを注入したり、経皮的に穿刺するなどのマーキング法が行われていますが、安全性に問題があります。腫瘍に密着する部位にゴールドマーカーを術前に留置すれば、手術を安全に行う上で確実に役立つと考えられます。

この治療を新たに導入する施設の方へ

この治療は放射線科と呼吸器内科の密接な連携が何よりも大切になります。北大病院では、臨床応用を開始して10年を経過した現在でも、放射線科と呼吸器内科のカンファレンスを週1回の頻度で行っています。新たに導入した当初は、まず両科で十分に話し合いを行って、お互いの考え方を理解し合うことが大切だと思います。
マーカーの留置は決して難しい技術ではありませんが、当科の経験でも導入初期には脱落率が高かったのです。しかし、手技が安定してくると脱落率は低下します。経験を積み重ねて技術の向上を目指していただきたいと思っています。

プッシャーの先端は、屈曲可能な構造となっている。

シースの誘導子先端を屈曲または回転させて、気管支を選択挿入

プッシャーが留置位置に達したら、シースをプッシャーの先端まで前進

プッシャーを抜去

ゴールドマーカーをカートリッジから押し出し、シースにゴールドマーカーを装填

シースにプッシャーを挿入し、シースの先端部までゴールドマーカーを押し進める

シース先端で、ゴールドマーカーをゆっくりと押し出し、気管支に留置

ゴールドマーカー留置位置のポイント
―北大病院第一内科 脱落率調査より―

北大病院第一内科では、より確実にゴールドマーカーを留置させることを目的に、マーカーの留置数・留置部位・胸膜との距離に分け、脱落率との関係についての調査を行った。
調査は2008年8月~2009年1月に行われ、平均観察期間は2カ月、16症例、留置したマーカー個数は、62個、脱落個数は13個で、20.9%の脱落率であった(図1)。1症例につき平均して3~4個留置したうち、1個は脱落するという結果であった。
部位別の集計では、留置数は右上葉、左上葉が多く、脱落率をみると右上葉は1割であるが、左上葉では、原因は明らかではないが3~4割は落ちてしまうことがわかる(図2)。気管支の走行角度などの影響と考えているが、現時点では左上葉の病変部の場合、距離が多少あっても、比較的なだらかで脱落しにくい胸膜直下の部分を1つは選択留置する必要があると考えている。
また、脱落したマーカーは胸膜から距離が有意に長かったというデータもあり(図3)、脱落を避け確実に留置するためには、胸膜からの距離が1cm以上離れないように、可能なかぎり胸膜直下ギリギリに留置する必要がある。

図1 調査概要    ※金球=ゴールドマーカー

図2 留置部位別の脱落率

図3 胸膜との距離と脱落率の関係