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はじめに

近年、胸腔鏡は呼吸器疾患の診断および治療に不可欠な手技の一つとして日常診療に大きな役割を果たしてきている1〜3)。胸腔鏡は、多くの場合、全身麻酔下に外科医によって施行されるが、胸膜病変に限定すれば局所麻酔下に内科医の手によっても施行しうる。これまで胸水貯留症例の診断は、胸水穿刺を施行して細胞診、細菌学、生化学的解析から診断を試み、また病理学的診断を得るため盲目的胸膜針生検を行なってきた。これらの諸検査によって多くの症例で診断が確定するが、難渋する症例も少なくない。このような場合、直接胸腔内を観察し、病変を確認して生検することで診断率は大きく向上する。

 

我々は1993年に局所麻酔下胸腔鏡検査を導入して以来27年が過ぎ、数多くの症例を経験しその有用性を報告してきた。局所麻酔下胸腔鏡は多くの施設に普及したが、未実施の施設も少なくない。本稿では、局所麻酔下胸腔鏡検査の実際と具体的手技について解説する。

適応

■ 疾患と有用性

局所麻酔下胸腔鏡の主な目的は、胸水貯留症例に対して胸腔内の観察と生検を行って診断を確定することにある(表1)。
当科においては、胸水検査や針生検で診断未確定の症例のみでなく、胸水ドレナージの必要な症例には可能な限り施行しているので、肺癌をはじめとする癌性胸膜炎、悪性中皮腫、結核性胸膜炎が主体となっている。これら3疾患は、生検診断が決め手になることや早期診断・早期治療が必要なことから、胸腔鏡の最も有用性の高い疾患である。気胸については、局所麻酔下でブラのルーピングや焼灼などによる治療も可能であるが、肺尖や縦隔側など死角にある病変は到達できないし、リークの確認も困難なため気胸の治療は行なっていない。

 

しかし、ドレナージ時に胸膜腔を観察しブラの部位や程度などを観察しておくと、外科療法を行なうか保存的に経過観察するかなど治療方針が立てやすい。急性膿胸では、急速にフィブリン析出によりコンパートメントが形成されドレナージが困難となることが多いので、なるべく早い時期に胸腔鏡による癒着の解除と有効なドレナージを行なうことが有用である。また、欧米では癌性胸膜炎による胸水コントロールを目的としてタルクを用いた胸膜癒着術が行われ、良好な成績が報告されている4)。本邦では保険適応外だが、胸腔鏡下にタルクを散布する方法(thoracoscopic talc poudrage: TTP)は確実性が高い5)。表2に著者らが施行した局所麻酔下胸腔鏡の内訳を示す。

■ 呼吸機能

局所麻酔下の胸腔鏡検査に求められる呼吸機能・全身状態を一般的に述べるのは困難であるが、通常気管支鏡検査に耐え得る状態であれば実施可能であると考えて良い。胸腔鏡検査にあたっては、胸部X線写真、胸部CT、動脈血液ガス分析、心電図などをもとに、全身状態を考慮し総合的に検査が可能か判断する。

■ 胸水量

ある程度胸水が貯留していたほうが穿刺しやすい。しかし、大量に貯留し肺が高度に虚脱している場合は、胸水排液後、再膨張性肺水腫を起こす可能性もあるので検査前日までにある程度除去しておいたほうがよい。胸壁腫瘍などで胸水を全く認めない場合は、人工気胸をつくってから行なう。癒着により胸水が限局して存在する場合もあるので必ず術前にエコーで確認する。

■ 禁忌

検査中片肺は虚脱するので、高度の呼吸機能障害や低酸素血症がある患者は施行が困難である。また、一般的外科手術と同様、虚血性心疾患や不整脈などがある場合は慎重に適応を検討する。そのほか、出血傾向のある症例、強度の癒着、広範な癒着が疑われる症例は禁忌となりうる。

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