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京都大学 消化管外科 教授 坂井 義治 先生

【はじめに】

新たに開発された5mm先端湾曲ビデオスコープ(LTF-S190-5)と左手ロング把持鉗子(WS1862/1)を、低位前方切除術2症例に使用した。これまでの10mm先端湾曲ビデオスコープ(LTF-VH)と比較しても全く遜色ない視野範囲と、脱気装置との組み合わせにより骨盤内でも曇りの少ない明瞭な映像が得られた。
左手ロング把持鉗子は、すでに汎用されている左手把持鉗子の改良型で、いわゆる「ハの字」展開ができるように鉗子先端部を長くし、薄い膜でもしっかり把持できるように溝に工夫が加えられている。先端部の僅かな曲がりが、視野の盲点をなくすとともに、直腸前方剥離の際の“unroofing”(神経血管束をめくるように剥離する操作)にも極めて有効である。

 

これらの新機器を使用した低位前方切除術(女性:Rb 直腸癌、stageⅠ: mp n0)を、特に骨盤内剥離操作に焦点をあてて静止画で供覧する。必ずしも順を追った操作手順でないことをご了承頂きたい。

【私の手術(剥離)の基本概念】

直腸癌の手術は頭側で血管を処理した後は、ひたすら続く剥離操作である。剥離層を説明するために様々な「膜」の名前が用いられているが、この「膜」を手術中にどのように把握するかにより、操作が容易にも困難にもなる。私自身は「膜」を、ある幅をもった蜘蛛の巣状の結合組織からなる間隙、つまり“結合組織間隙”と理解している。すなわち、S状結腸間膜と背側の尿管や性腺動静脈の間の結合組織間隙(腎筋膜)、下腹神経と直腸固有筋膜の間の結合組織間隙(下腹神経前筋膜)、精嚢・前立腺(膣)と直腸前壁の間の結合組織間隙(デノビ膜)である。これら“結合組織間隙”は、それを捉えようと意識した counter traction や tissue triangulation の下ではじめて確認できるものであり、拡大された“結合組織間隙”のどこを剥離(腸側あるいは遠位側)あるいは切離するかは、腫瘍の位置と術者の好みによる。そして“結合組織間隙”は剥離操作中には確かに「間隙」に見えるものの、一旦剥離された後は「膜」のように張り付いてしまい「間隙」を再現することは極めて困難となる。また、拡大された「間隙」ならば複数の層に剥離することも可能となる。重要なことは、(1)「間隙」を見つけるために、腹膜など「間隙」を境界する組織をしっかりと把持挙上、あるいは有効な counter traction、tissue triangulation を上手く作ることで「間隙」を可及的に拡大すること、(2)「間隙」は浅めに少しずつ切離することで、その深部間隙がさらに拡大され不用意な組織損傷を防ぐことができること、(3)「間隙」が不明瞭な場合は、術野展開法を変えるか、別の手術野に移り、「間隙」を確認できるまでは剥離・切離を行わないこと、(4)「間隙」中に出くわす脂肪組織中には血管や神経の直腸枝があること、を理解し実践することである。たとえ剥離層が間違っていても、「間隙」を剥離している限り重要な構造物は切離することはなく安全に修正が可能となる。

Technique

【操作解説】

体位は頭低位(小腸が重力で骨盤内から滑り落ちるまで)で左側をやや高くする。
ポート位置と術者の位置を下に示す。


ポート位置

それでは、いくつかの操作ポイントを静止画像にて解説する。