On-Demand Library On-Demand Library

走査の実際 経十二指腸下行部

 十二指腸下行部操作はショートスコープポジションで行います。スコープ先端を下十二指腸角付近まで進め、大動脈、下大静脈、上腸間膜動・静脈、門脈を指標とし膵頭部、膵頭体移行部、胆管、胆嚢を観察します。

 

STEP 1|下十二指腸角

スコープが下十二指腸角に到達したら、走査を開始します。
アップアングルがかかっていない状態では、画面左下に大動脈、下大静脈が円形の輪切り像として描出されます。
水を注入することにより、十二指腸水平部の管腔が広がり認識しやすくなります。

STEP 2|膵頭下部

スコープにアップアングルをかけると、画面左側に縦走する大動脈、および下大静脈が描出されます。この時、対側に上腸間膜動・静脈(通常は振動子側が上腸間膜静脈)が認識できます。振動子と上腸間膜動・静脈の間に描出される膵頭部を観察します。

特に膵頭下部領域を見落とさずに観察することが重要です(Point ⑥参照)。

STEP 3|膵頭部

スコープをゆっくり引きながらアップアングルをゆるめて、大動脈、下大静脈の輪切り像を描出し、振動子と上腸間膜動・静脈の間に存在する膵頭部を観察します。
右側に膵頭部の高エコー領域、左側に低エコー領域が描出されます(点線)。

STEP 4|乳頭部近傍

さらにスコープをゆっくり引くと、振動子近傍に乳頭部が観察されます。

STEP 5|胆管、主膵管(短軸)

乳頭部を認識後に、スコープをわずかに引くと、2本の管腔構造が描出されます。振動子に近い方が胆管、遠い方が主膵管です。

STEP 6|胆管、主膵管、乳頭部近傍

描出された胆管・主膵管を見失わないように、アップアングルをかけると、胆管・主膵管が長軸像になります。この際、左アングル・反時計回転で、微調整を行います。

STEP 7|胆管、主膵管(長軸)

スコープに反時計回転をかけながらわずかに引き、胆管・主膵管の長軸像を描出します。

STEP 8|胆管、胆嚢

スコープに反時計回転をかけゆっくり引きながら、肝門側の胆管を観察します。

STEP 9|胆嚢

さらにスコープを引いて、胆嚢頚部から胆嚢底部までを観察します。

横断法と縦断法

    2003年に発刊された「超音波内視鏡による膵・胆道領域の標準的描出法」では、下十二指腸角までスコープを進めた後の十二指腸下行部からの走査法として、PUSH法とPULL法を紹介し、後者を用いた膵頭下部からの観察として、“横断法”と“縦断法”を提案しました。今回は、PUSH法をロングスコープポジションとし、PULL法をショートスコープポジションとして取り扱いました。

 “横断法”は、スコープのアングルが中立の状態で被検者の体幹軸に垂直となる面でスコープ走査を行います(図a、b)。主膵管および胆管は短軸の輪切り像として描出されるため、乳頭部および合流部の観察に適していますが、胆管や主膵管の長軸像の描出が困難です。

    “縦断法”は、スコープにアップアングルをかけることで被検者の体幹軸にほぼ平行な走査面を設定し、長軸に描出された大動脈、下大静脈を指標としつつ、乳頭部近傍の主膵管や胆管を長軸方向に描出します(図c、d)。膵頭下部、膵頭部が広く描出可能ですが、乳頭の同定がやや難しい場合があります。

    今回の標準的描出法では、“横断法”および“縦断法”とあえて区別せず、下十二指腸角までショートスコープポジションにして進め、まず“横断法”で主膵管および胆管を短軸の輪切り像で描出した後、スコープのアップアングルを用いてそれらの長軸像の描出に移行する走査法を行います。これにより膵・胆管合流異常、副膵管などの描出が可能となります。
 このため、十二指腸下行部での「アップアングルの使い方」と「それにより描出される超音波画像所見」を意識した走査法の提案を行いました。

 

図a

図b

図c

図d

膵頭部観察の注意点(膵鉤部含む)


 膵頭部は病変が多く、注意深い観察が必要です。特にロングスコープポジションでは、スコープ先端が十分に肛門側に進まないため、全ての膵頭下部は観察できないことを認識すべきです。またロングスコープポジションで無理にスコープを押すと穿孔の危険もあるため注意が必要です。このため膵頭下部全体を観察するためにはショートスコープポジション操作も加える必要があります。膵頭下部の観察のためにはショートスコープポジションにした後に大動脈、下大静脈の輪切り像を描出し、水(微温湯)を注入し十二指腸水平部を認識します(図a)。膵頭部は十二指腸水平部の被検者頭側に位置します。またその後、スコープのアップアングルをかけて上腸間膜動・静脈を描出します。スコープと血管の間に膵頭下部が存在しますので、この領域を良く観察します。できるだけ上腸間膜静脈の分岐まで追うと良いでしょう(図b)。

    膵鉤部は膵頭部の一部であり、膵頭下部から上腸間膜静脈の背側左方に突出する鉤状突起付近を指します。膵頭部から鉤状突起が突出することによってできる切れ込みを膵切痕と言い、ここを上腸間膜動脈が通ります。膵鉤部の大きさは個人差が大きく必ず描出されるとは限りませんが、十二指腸のショートスコープポジションで上腸間膜動・静脈を指標に観察すると認識が容易です。膵鉤部は上腸間膜動・静脈と大動脈の間に膵頭部から突出した部位として認識されます(図c)。CT画像を90度時計方向に回転させ、超音波画像と対比をすると、より理解しやすいでしょう(図d)。

図a

図b

図c

図d

膵実質の追い方


 膵臓は長さ約20cm、幅2-4cmの左右に細長い臓器で、胃と十二指腸の両者からの描出が必要であり、膵実質全体をラジアル走査式EUSで見落としなく観察するには、いくつかのポイントがあります。超音波画像はあくまでも平面画像であり、画面の上下左右だけではなくスコープ操作で前後の“幅”を意識した描出をすることで立体構築ができるだけでなく、見落としを少なくすることができます。

   胃内からの観察は脾静脈の長軸像を指標にして、その振動子寄りにある膵体部から膵尾部を描出します。その際には“血管を追う”のではなく、“膵実質を追う”ことが大切です。特に膵尾部末端は脾静脈から離れていく場合があり注意が必要です(Point ④参照)。

   十二指腸から連続的に膵実質を追う際は、ショートスコープポジションにしてスコープ先端を下十二指腸角付近に位置させてから、バルーンを膨らませて観察を開始します。その際にはなるべくスコープ先端を肛門側に進め、膵頭下部や膵鉤部の病変を見落とさないように注意します(Point⑥ 参照)。そのままスコープをゆっくり引きながら連続的に膵実質を描出していくと、スコープが球部で引っかかります。この部位がラジアル走査式EUSで見落としやすい膵頭体移行部です。膵頭体移行部をくまなく観察するには、スコープをさらに引いて幽門輪に引っかけ、十二指腸を重積させて描出します。ここからバルーンを少しずつ縮めスコープ先端をそのまま胃内にゆっくり引き戻し、膵体尾部を連続的に観察します。

 

膵・胆管合流異常の診断


 膵・胆管合流異常(合流異常)の診断には、直接胆道造影やMRCP、MD-CTなどにより膵管と胆管が異常に長い共通管をもって、または異常な形で合流することを確認するとともに、膵管・胆管が十二指腸壁外で合流し、乳頭括約筋の作用が及ばないことを確認する必要があります。

 ラジアル走査式EUSは、解剖学的な合流異常の証明(図a)に有用で、その診断能は非常に高いです。胆管拡張を合併する合流異常の診断は比較的容易です。一方、胆管拡張を合併しない合流異常では、高頻度に胆嚢上皮の過形成が認められ、EUSでは胆嚢壁内側低エコーの肥厚として反映されることが多く、診断の契機として重要です(図b)。

 胆管拡張を合併しない合流異常では、高率に胆嚢癌を併発するため、肥厚した胆嚢壁の評価は癌の存在を念頭におき、慎重に行うことが求められます。 

図a

図b

副膵管の観察


十二指腸下行部走査でショートスコ-プポジションとして乳頭部近傍の低エコーを同定した後、この中に胆管と主膵管を描出し、主膵管を長軸像として長く描出します(図a)。その後、スコープにわずかに時計回転をかけることで十二指腸内腔(振動子側)に向かう別の管腔構造(副膵管)が描出されます(図b)。但し、副膵管が非常に細い場合や分岐形態によっては描出が困難な場合があります。また、副膵管が描出可能な場合でも、膵管癒合不全の診断は難しいことが多く、MRCPを併せて撮像することをおすすめします。

図a

図b

経十二指腸下行部走査(ショートスコープポジション)における解剖学的理解


 経十二指腸下行部走査(ショートスコープポジション)に関して、スコープの位置を3カ所に分けて、描出される超音波画面とスコープの向きの関係を説明します。


(1)下十二指腸角(IDA)
 スコープを十二指腸下行部で直線化し、スコープ先端を下十二指腸角まで挿入した後に、アップアングルをかけると、振動子の先端は被検者の左を向くので、被検者の左側から見た矢状断に近い超音波画像を得ることができます。したがって、大動脈と上腸間膜静脈が長軸に描出されて、その間に挟まれた膵頭下部/鉤部を描出することができます。このとき、アップアングル方向が被験者頭側を向いているので画像の向きは6時方向が頭側になります。

(2)乳頭部水平断
 乳頭部の観察は、IDAで操作したアップアングルを戻し、スコープを直線化した後に引き抜きながら観察すると、大動脈や下大静脈が短軸に描出されるとともに、乳頭部の水平断が観察されます。

(3)十二指腸下行部
 再度、十二指腸下行部でアップアングルをかけて、スコープをゆっくり引きながら反時計回転をかけると、振動子の先端が乳頭とSDAの間で腹側から背側方向に向いて、門脈や胆管の長軸像を描出することができます。この位置ではアップアングルの方向が被検者の頭側を向いている事が多く、その場合胆管の長軸像は超音波画像上、振動子の右側(ロングスコープポジションの位置と比較して180度回転した形で)に描出されます。このまま観察しても良いのですが、イメージローテーションを用いて見やすい位置に胆管の長軸像を移動しても構いません。