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麻酔

■ 術前処置

症例によって、前投薬として硫酸アトロピン0.5mg、ペンタゾシン15mgを筋注する。トロッカー挿入部位の皮下層、筋肉層、壁側胸膜層にエピネフリン入りのリドカイン(1%)を注入し、十分な局所麻酔を行っておく。

■ 術中管理

対象とする症例はほとんどで胸水が貯留し片肺がすでにある程度虚脱しているため、胸腔が大気圧に開放されても動脈血酸素分圧の低下は軽度である。必要に応じて経鼻的に酸素を2〜3L/分で投与して、パルスオキシメーターで酸素飽和度をモニタリングして実施する。また、静脈路は循環系に異常が出た時に治療薬を投与するルートとして確保して実施する。

検査の実際

局所麻酔下胸腔鏡の手技は基本的に胸腔ドレナージチューブ挿入の手技と同じであり、適応を限定し、手技に熟練すれば内科医でも十分に施行可能である。その実施にあたっては局所麻酔下で施行することの限界をよくわきまえて行なうことと、万一の動脈性出血等の可能性も考慮して外科医とも常に連絡を取合い、協力体制を確立しておくのが理想的である。以下、実際の検査手順に沿って解説する。

■ 術前検査

癒着などにより局所的に胸水が存在している場合もあり、検査前に穿刺する体位で体外式超音波診断装置を使って、穿刺部位の胸壁の厚さや胸膜癒着の有無、胸水の局在部位、胸水内のフィブリン析出や器質化の程度、大血管、心臓、横隔膜など周辺臓器との位置関係とその呼吸による変動を確認しておく。癒着の有無は、臓側胸膜エコーと壁側胸膜エコーが呼吸に同期して移動する様子で確認することができる。

写真4. 実際の検査の様子

図2. トロッカー穿刺部位
一般に第5または第6肋間中腋窩線上にトロッカーを刺入する。癒着等により刺入が難しいと予測される時は、適宣位置をかえる。

図3. トロッカーの刺入(断面)
胸壁に対し斜めの方向(l',l")にトロッカーの挿入通路を作ると、胸腔鏡の向きが制限される。極力垂直にした方が、広い範囲を観察しやすい。

図4. 胸腔内の観察1

図5. 胸腔内の観察2

■ トロッカーの留置

患者への侵襲性を考慮して、挿入孔は通常1ヶ所しか設けないため、胸腔内を広く観察しやすいところから刺入するのが原則である。挿入部位は、CT所見や術前の超音波所見より決定する。一般的には、第5または第6肋間中腋窩線上に設けると胸腔内を広く観察できる(図2)。局所麻酔下では、肋間での胸腔鏡の無理な操作は患者の痛みを伴うことから、その動きは制限されるため、極力肋間の広い部位にトロッカーを挿入することも重要である。局所麻酔下胸腔鏡ではフレキシブルトロッカーを使用する(写真3)。ポビドンヨード液で皮膚消毒後、局所麻酔を施行し、1〜1.5cm皮膚切開し、鉗子で鈍的に筋層の剥離を進めて壁側胸膜を切開して胸腔内に到達する。剥離は胸壁に対して垂直方向に進めるようにする(図3)。壁側胸膜を切開すると瞬時に胸腔内に空気が入り込む音がするので、容易に判断できる。これによって胸腔内は大気圧に開放され、肺はある程度虚脱する。鉗子を開大してトロッカーの挿入通路を作り、トロッカーを挿入する。大量の胸水が貯留している患者は、胸膜切開とともに胸水が溢出することがあるので、ガーゼ等で押えるようにする。トロッカーを挿入する際に抵抗があるようであれば無理に挿入せず、切開幅を広げる。

胸水貯留のない症例では人工気胸を作り、肺を虚脱させてからトロッカーを挿入する。人工気胸針に三方活栓をつけ滅菌生理食塩水の入ったU字管またはエクステンションチューブをつなぎ、胸腔内に針が入った瞬間陰圧によってU字管の液面が移動するので、その時三方活栓を大気圧に開放し気胸を作成する。

■ 胸水ドレナージ

胸腔鏡をトロッカーより挿入し、吸引チャンネル孔より胸水を吸引する。胸水が大量の場合、トロッカーの内筒を抜いた瞬間より胸水が溢れ出してくるのですぐに吸引しておく。胸水を検査に提出する場合は、気管支吸引キットなどを用いてサンプリングしておく。胸水は極力除去したほ
うが縦隔に近い部分の観察が行ないやすい。

■ 胸腔内の観察

局所麻酔下では肺の十分な虚脱が得られないために縦隔側と肺尖部の観察は困難である。観察においては、胸壁に対し胸腔鏡を鋭角にすると肋骨が刺激され患者は疼痛を訴えるので、胸腔鏡の無理な操作は極力控え、なるべく胸腔鏡を垂直に挿入した状態で先端のフレキシブルな部分を湾曲させて視野を得るようにする(図4(a))。胸腔鏡にくもりが発生する場合は、チャンネルより胸水を吸引するとクリアな視野が得られる。胸水がない場合は、生理食塩水を加温したものを用意し、適宜、胸腔鏡の先端を加温してから観察する。方向のオリエンテーションがつかない場合は、胸腔鏡のグリップ部を見て湾曲方向を確認し、挿入部の延長上の視野をイメージすると分かりやすい(図5)。また、先端フレキシブルスコープは、湾曲が強くかかっている状態で胸腔鏡を胸腔内に押し込むと観察部位との距離が離れていく場合があり、留意しておく。

観察は、系統的に肺尖部方向、前胸壁方向、背側方向、横隔膜方向ともれなく行ない、写真撮影と動画記録をする。挿入孔の周囲を観察する場合は、フレキシブルトロッカーを胸壁ぎりぎりまで引き抜いてスコープを屈曲させると視野が得られる(図4(b))。

■ 生検

生検は、原則的に壁側胸膜および横隔膜より行い、臓側胸膜からは行わない。正常な胸膜は生検時疼痛を感じるが、癌性胸膜炎や悪性中皮腫など病変部は疼痛を感じないことが多い。疼痛のある場合は、生検部位にあらかじめ散布チューブなどでキシロカインを散布しておく。生検する際は、鉗子が病変部に対して垂直方向からあたるよう胸腔鏡の湾曲角度を調整する。特に、胸膜が肥厚し硬化している病変は、鉗子のカップが滑りやすく十分な生検量を得ることが出来ない場合がある。この場合は、鉗子を胸腔鏡先端から必要以上に突出させないようにして、胸腔鏡ごと胸膜に対して鉗子を押し付けるようにすると、効果的に鉗子に力を与えることができ有用である。さらに、生検効率を上げるため、クライオ生検や高周波ナイフを使用した生検が報告されているが、日本では適応外使用となっている。生検後、胸腔内を一通り観察して出血の有無を確認する。その後、トロッカーカテーテルを留置する。

術後管理

■ ドレナージチューブの留置

胸腔内を観察し先端をどの位置に留置するか決めて、スコープの挿入深度などからどの方向にどのくらいまで挿入するかイメージしておく。フレキシブルトロッカーを抜去した後トロッカーカテーテルを留置する。

胸水が大量に貯留し肺が虚脱していた症例では、ドレーンをすぐにウォーターシールにせず、クランプと開放を繰り返し、少しずつ肺を再膨張させるように注意する。肺が急激に再膨張すると再膨張性肺水腫をきたす。