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局所麻酔下胸腔鏡による治療

■ 癒着解除

急性膿胸では、胸膜腔がフィブリン膜により急速にコンパートメントを形成しドレナージが困難となることが多いが、なるべく発症早期に胸腔鏡下でフィブリン膜を破壊して胸膜腔を一体にドレナージすることで治癒改善が促進される6-7)

 

著者らの経験では、約2週間以内に治療した症例は治療成績が良かったという結果が出ている。具体的には、胸腔鏡のチャンネルにカップの大きい鉗子を挿入し、カップを開いた状態でフィブリンに押し当てる操作を繰り返し行ってフィブリン膜を破壊する。線維素性癒着は容易に破壊切除できるが、血管の増生を伴う慢性化した癒着は、切除すると出血をおこすので局所麻酔下手技では手をつけない。

■ 胸膜癒着術(タルク散布)

癌性胸膜炎による胸水のコントロールには、テトラサイクリン系抗生物質、アドリアマイシンなどの種々の抗癌剤、OK-432などを用いた胸膜癒着術が行われている。しかし、その効果は必ずしも満足のいくものではなく、胸水が再貯留する場合も多い。

一方、タルクは他の薬剤と比較して効果が高い。とくに、胸腔鏡を用いて、観察下でタルクを胸膜腔全体に均一に散布することにより、肺全面に癒着を形成することが出来る(日本では適応外)。欧米で滅菌済みのタルクスプレーも市販されており、国内への早期導入が望まれる。

合併症の予防と対策

著者は、これまで1000例以上に局所麻酔下胸腔鏡を施行したが、問題となる合併症は術後に再膨張性肺水腫を来した1例のみであった。死亡率0.34%と報告されているが、治療を行わない診断目的の胸腔鏡では0%とされている7-8)

合併症として膿胸、出血、空気漏、術後気胸、肺炎などのmajor complicationsが1.8%で、皮下気腫、小出血、皮膚感染などのminor complicationsが7.3%と報告されている8)。以下、考えられる主な合併症の予防と対策について述べる。

■ 出血

これまで止血の必要な出血をきたした経験はないが、生検後などで出血が止まりにくい場合は、エピネフリンに浸した綿球などで圧迫するとよいと思われる。高周波電気メスやバイポーラなどによる凝固も考えられるが胸膜は疼痛があるので局所麻酔下では使用しにくい。動脈性の出血は局所麻酔下胸腔鏡での止血は容易ではない。

したがって、出血の可能性のある処置や血管系を損傷する可能性のある処置は行なうべきではない。通常、肋間動静脈は壁側胸膜より透見できるため、この部分を避けて生検する。胸膜が肥厚しているケースでは血管を損傷することは少ないと思われるが、鉗子で肋骨位置を確認して、血管が存在する部位からの生検を避けるようにする。また、完成した胸膜癒着のある症例では、癒着内に血管増生があり、剥離時に出血の危険性があるため、手をつけない。

■ 痛み

一般に、胸膜に病変があり、肥厚している部位は生検時に痛みを感じることは少ないが、正常組織に近い場合は生検時に痛みを伴うことが多い。著者は生検を行う前に組織を鉗子で触り、痛みの有無を確認し、痛みを感じるようであれば、胸腔鏡のチャンネルに麻酔散布用チューブを挿入し直して、1%リドカインを直接生検部位に散布している。

■ 気胸

基本的に局所麻酔下胸腔鏡では、臓側胸膜からは生検しないこと、強度の癒着がある症例は適応外とすることから、気胸のリスクは少ない。但し、胸水が少ない場合や癒着のある症例では、胸壁穿刺時に肺実質を損傷することも考えられるため、胸腔内への到達に際しては十分な注意が必要である。特に検査直前には体外超音波でトロッカー穿刺予定部位の胸腔内の状態を確認しておくことが望ましい。

■ 再膨張性肺水腫

前述したように、大量胸水は可能ならば検査前日までに少しずつ排除しておく。また、検査時に大量に排液した症例では、少しずつクランプを開放し、段階的に肺を再膨張させるようにするのが原則である。また、肺水腫は検査後30分から数時間以内に出現することが多いため、なるべく午前中に検査を行って経過を観察する。発症した場合、通常は、ステロイドの使用で改善する。

■ 感染

予め胸水ドレナージチューブが挿入されている症例では、胸腔内感染を予防するために同じ挿入孔は使用せず、別の部位から改めて穿刺する。検査後、特に抗生剤の予防投与は行なっていない。

■ その他

胸壁皮下組織や筋層の薄い症例では、術後ドレナージチューブ周囲より皮下気腫がみられることがある。また、悪性中皮腫や癌性胸膜炎症例では、穿刺孔周囲より腫瘍が浸潤してくる場合がある。いずれも、術後太めのチューブを挿入し、周囲をしっかり縫合固定し、ガーゼ枕などで圧迫固定しておくとよい。

今後の展望

欧米では、古くからMedical Thoracoscopy(内科的胸腔鏡)という概念があり、胸水診断などは内科医でも施行してきたが、国内においては、胸腔鏡というと外科医の施行するものという概念が強いようであり、普及しているとは言い難い。
胸腔鏡は局所麻酔下でも施行可能であるため、呼吸器疾患の診断や治療の幅を広げる手技としてさらに多くの臨床応用の可能性を持っているものと期待される。

<文献>
1)石井芳樹:胸腔鏡による呼吸器疾患の診断.第17回胸部疾患セミナー(日本胸部疾患学会卒後教育委員編). 1996,pp.38-49.
2)石井芳樹, 北村 諭:内科側から見た胸腔鏡の有用性-胸膜病変, 肺野腫瘤状病変, 肺びまん性病変の診断. 日胸疾 34:159, 1996.
3)石井芳樹, 北村 諭:局所麻酔下胸腔鏡検査の有用性. 結核 75:51-56,2000.
4)Kennedy, L., Sahn, S. A. : Talc pleurodesis for the treatment of pneumothorax and pleural effusion.
Chest., 106 : 1215-22, 1994.
5)Aelony, Y., et al. : Thoracoscopic talc poudrage pleurodesis for chronic recurrent pleural effusions.
Ann Int Med., 115:778-82, 1991. Lung Dis., 74:225-239, 1993.
6)Bhatnagar R, Corcoran JP, Maldonado F, Feller-Kopman D, Janssen J, Astoul P, Rahman NM. Advanced medical interventions in pleural disease.
European respiratory review : an official journal of the European Respiratory Society 2016;25:199-213.
7)Sumalani KK, Rizvi NA, Asghar A. Role of medical thoracoscopy in the management of multiloculated empyema. BMC pulmonary medicine 2018;18:179
8)Rahman NM, Ali NJ, Brown G, Chapman SJ, Davies RJ, Downer NJ, Gleeson FV, Howes TQ, Treasure T, Singh S, Phillips GD. Local anaesthetic thoracoscopy:
British thoracic society pleural disease guideline 2010. Thorax 2010;65 Suppl 2:ii54-60.
9)Boutin, C. et al.: Thoracoscopy in malignant effusions. Am. Rev. Respir. Dis., 124: 588-592,1981.
10)Boutin, C. et al.: Diagnostic and therapeutic thoracoscopy: techniques and indications in pulmonary medicine. Tuber.Lung Dis 74:225-239,1993.

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